冬のソナタ もう一つの結末

 

舞黒一太郎です。



 冬のソナタの最終回で、最後の感動のハッピーエンド場面が訪れるわけですがどうもそこに至る話に無理があり、私はいまひとつ納得出来ないものを感じます。それは


1,

 愛し合う主人公チュンサンとヒロインのユジンが兄妹であることが判明し、そのために泣く泣く別れる決心をした。しかしよく調べたら血のつながりがないことが判明した。つまり結婚への最大障壁はなくなったことになる。


2,

 最大障壁の血縁関係による壁はなくなった。しかしユジンを助けようとしてチュンサンは交通事故にあい、生死にかかわる後遺症が残る。かりに命が助かっても失明の可能性が高いことがわかり、自分と一緒となれば、自分がユジンのお荷物になるからと、ユジンと別れる決心をした。
 

3,

 ユジンは、兄妹という理由で別れる決心をしたチュンサンの意見に同意して、心の整理をした。


4,

 ところがユジンは、チュンサンのアメリカ行き寸前になって、自分とチュンサンが兄妹でないことがわかり、結婚になんら支障がないことを知る。と同時にチュンサンの病気がとても重いことも知らされる。それなのに自分に迷惑かかわらないよう気遣って身を引き、サンヒョクに将来を託したチュンサンの思いやりを知り、すぐに後を追いかけるが、飛行機はもう出たあとだった。


5,

 その後ユジンはチュンサンの看病に向うことなく、フランスへ留学する。


 という流れになるわけですが、自分のため事故を起こし、その後遺症のため死ぬかもしれない恋人を置いて、のうのうとフランスへ勉強に行くという設定のラストシーンへの導入はイマイチの気がしました。


冬のソナタ、もう一つの結末


 失明するかもしれない自分が、将来ユジンへの負担になることを確信したチュンサンは、後をサンヒョクに託しアメリカに出発した。さまざまの曲折を経て、やっと手に入れた恋を、むざむざあきらめざるを得なくした事故の後遺症であった。むなしさと恐怖におののきながら彼はデンバーの病院に入院したが、連日の入念な検査の結果は、やはり思わしいものではなかった。


 手術結果は最悪となった。生命の不安こそ無くなったが、失明してしまった。予想どうりであるとはいえ、失明という重い現実に直面したチュンサンは、混乱の末、錯乱状態となる。
 そんな中、彼はキム次長に頼んで、ユジンの設計した、幻の家を韓国に密かに建ててもらい、韓国に行った際は、そこでユジンとの思い出に浸ることにする。



 ともあれチュンサンのアメリカでの新しい生活が始まった。建築デザイナーとしてのミニョンの実績を高く評価しているマルシアンは、盲目となった彼に、彼の眼となるべきスタッフをつけることにした。そのスタッフ募集の会場にユジンの姿があった。
 チュンサンは彼女ために再び交通事故を起こし、なのに不虞となった自分が彼女の一生お荷物になると思い込み、別離を選んだ人なのだ。そのチュンサンを放ってのフランス留学など、彼女にはどうしても出来なかった。盲目となってしまったチュンサンを支えるには、彼が仕事で立ち直るしかないと思い、やってきたのであった。


 スタッフに選ばれたユジンは、あえて自分の素性を隠し、まったく別人のヨアンになり切った。ヨアンはチュンサンことミニョンを常にやさしく、かつ厳しく慰め、支え続けた。(これは神様があなたに与えてくれた試練なの。この事態をいつまでも悲しんでいてはだめ。この事態をのり越えなくては。ここがあなたのスタートラインなの。今あなたが出来ることを探しましょう)


 ヨアンは仕事に一切恋愛感情をはさまなかった。自分のために盲目となり、自分に迷惑をかけないため別離を選んだチュンサンのため、ミニョンの眼となり、手足としての仕事に没頭する。人間としての自信を取り戻させること、それが彼への償いと確信したからだ。この彼女の献身的行為に、ミニョンはいつしか惹かれるようになっていく。


 その後二年の歳月が過ぎた。なにもかもすっかり落ち着いていき、うまくいくようになった。ミニヨンはすっかり自信を取り戻し生き生きとしてきた。そこでヨアンは自分の仕事の終わりの時を知る。彼女は静かにミニヨンに告げる。(ミニョンさん、私の役割はもう終わりました。もうあなたは私無しでも十分やっていけます。でもお別れする前にただ一つお願いがあります。もう一度、眼の手術を日本でしてください。日本にはあなたのような例で回復した病院があるそうなの)
 驚いたミニヨンは彼女を必死に引き留めるが、ヨアンの決意は固かった。



 ミニヨンはヨアンの忠告に従い、日本の済生会病院で手術を受けた。手術は成功し、いよいよ包帯を取る日の日がやってきた。包帯を取ってゆっくりと眼を開けるミニヨン、ぼやぼやっとした風景見え、それはやがてはっきりしたものになる。そう、彼の眼は奇跡的に回復したのだった。ミニヨンはヨアンの姿を必死で探すが、彼女は消えてしまった。


 ミニヨンは元の自分に戻ることが出来た。ミニョンとしての仕事での名声はさらに高まり、仕事は忙しくなるばかりであった。



 キム次長がチュンサンの依頼で建てた家は、韓国の建築雑誌に取り上げられた。それを目ざとく見つけたジョンアはユジンに告げる。「ねえ、これはあなたの設計した家じゃないの。誰がパクったんだろう」、ユジンはそれを見て、すぐチュンサンが作ったものだと確信した。


 ミニヨンはキム次長に依頼して作った、ユジンとの思い出の家にいた。やり手、キム次長による家の出来映えは完璧だった。しかしユジンとのことより、自分を取り戻してくれたヨアンのことへの想いがよぎるミニヨン。ベランダで海を見ているうち彼は眠りに落ちる。


 その時ユジンはこの家を訪れていた。壁、柱、造作すべてが自分が設計したとおりだった。そしてベランダに向かったとき、眠っている人を見た。愛するチュンサンその人であった。感動のあまり声をかけるユジン。 「チュンサン」、、、、


 深い眠りの後、急に名前を呼ばれたミニヨンは事態が理解できなかった。誰かが自分を呼んでいる。「チュンサン、、」と。しかしその声がヨアンの声だとすぐ覚った。「ヨアン、ヨアンなの」と目を見開くと、目の前にはなんとユジンがいたのだ。彼はすべてを知った。そう、ヨアンこそユジンその人だったのである。彼の眼には涙があふれた。彼は人生で三度人を愛したが、それはいずれもユジンだったのだ。